2022年9月9日金曜日

MSCP-01 Custom MicPreamp / D.I



アーティスト、ソングライター、ベースプレイヤーとしてマルチに活躍する白神真志朗さんのカスタムギア・MSCP-01を製作しました。

MSCP-01はFloatia DesignsのオリジナルマイクプリアンプHA-02を土台に、白神氏の要望を取り入れ、様々なカスタムを施したマイクプリアンプ/D.Iになります。




MSCP-01はHA-02と同じくディスクリートオペアンプ(DOA)による信号増幅部とトランスカップルの入出力部で構成されています。

DOAは当方のFDOA-02を初段ゲインブロックに、FDOA-01を出力ブロックにそれぞれ一基ずつ配置。2種類の特性が違うDOAを組み合わせることで音色に独自のカラーリングを施しています。

トランスはQuadEightのヴィンテージコンソールから引き抜いた7100-01をマイクトランスとしてマウント。出力トランスは同様にヴィンテージMCIのコンソールの7C111とEdcor WSMの2種類を搭載し、出力トランスはフロントパネルのスイッチで切り替え可能となっています。程よいサチュレーションが特徴のヴィンテージトランスと、特性のバランスに優れた現行トランス2種類をシチュエーションによって選択可能です。

D.I部分は独立したJ-FETバッファを通過した後、マイクプリアンプと同じDOAで増幅される構成になっており、ゲインアップすることによりより歪みやサチュレーションを追加するというサウンドメイクが可能になっています。(サチュレーションの度合いはLEDで視認できるようになっています)

またInst入力はXLR出力とは別にプリアンプ回路を通った信号をアンバランス出力することができます。この機能はTFDI-02と同様のものです。MSCP-01をヘッドプリアンプとして使用し、D.I機能と並行して楽器用アンプに接続するというルーティングも可能になります。



ヴィンテージトランスとDOAの載った基板


その他音声および電源に使用されるコンポーネントはすべて音質と耐久性を両立したヘビーデューティーな物のみを採用しています。白神氏の「今まで機材の故障が非常に多かったので耐久性が高く長く使えるものを」というコンセプトに沿う形になります。

電源部分は電流パターン強化した専用レギュレータにVishay製の高耐久電解コンデンサーとSiCダイオードによる高速整流回路で構成されます。トランスも通常より容量の多い50VAのトロイダルトランスを採用しています。メインの正負電源、ファンタム電源とは別途にリレーや信号制御系の電圧は別のレギュレータで生成し、ノイズが混在しない工夫がされています。

ゲインコントロール用のロータリーSWはハイグレード機材の定番Grayhill製。アウトプットボリュームは一般的なパネルマウント可変抵抗ではなく特注の固定抵抗による22接点アッテネータになっています。出力アッテネータはステレオ2回路用のものをモノラルで片側だけ使うという非常に贅沢な仕様です。

アーティストの要望に特化しつつも剛健質実と使い勝手、サウンドバリエーションを兼ね備えたディスクリートプリアンプに仕上がりました。


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僕がマイクプリアンプに求めるサウンドは大きく分けて二つあります。

一つは、ハイファイなマイクで収録するボーカルやアコースティックギターの透き通った立体感や、きめ細やかさ。

もう一つはベースやスネアなどのアタックを、適度にアンサンブルに馴染ませてくれる、レンジ感や歪みの演出。

通常これらを叶えるためには複数の機種を用意しなければなりません。

ボーカリスト、ベーシスト、コンポーザー、レコーディングエンジニアとして、様々なサウンドソースに対応しなければならない中、機材を選定する楽しみも掛け替えのない面白さがありますが、「いつでもどこでも、これさえあれば大丈夫」と言える相棒のようなプリアンプは、長年の夢でもありました。

しかもそれが、最高の音質でありながら、シンプルで頑丈、比較的軽量で可搬性に優れており、D.I.としても使えたら、どんなに素晴らしいでしょうか。

Floatia Designsが、そんな願いを全て叶えてくれました。MSCP-01はレコーディングからライブまで、全ての音楽制作に連れていきたい、最高の一台です。

このプリアンプには、バランスアウトに二つの音色が用意されており、それぞれ用途によって使い分けることが可能となっています。

Aチャンネルは甘く歪むビンテージモード、Bチャンネルはクリアでシルキーなモダンモードです。

ゲインとアウトプットにはそれぞれインジケーターがついており、時間の取れないサウンドチェックでもトラブルを回避し、理想のサウンドに素早く辿り着くことができます。

基本設計とアンプ回路の素晴らしさ故に、それぞれのチャンネルは、楽曲や演奏に合わせてどんな組み合わせでも良い結果をもたらしますが、以下に僕の主な使い方を少しご紹介します。

AチャンネルはベースのD.I.として、ゲインを少しブースト気味にして使うのがお気に入りです。

過剰なトランジエントと、ローエンドが落ち着き、上質なコンプレッサーにも似た質感を与えてくれます。

あと一歩踏み込んだ演奏がしたいというときに、安心して飛び込んでいけます。

Bチャンネルは主にコンデンサーマイクで使用しています。ボーカルの透明感とシルキーな質感は特筆すべきものです。

細やかな表現を余すことなく伝えてくれ、それでいて過敏ではなく、自然な音質です。

今まで使用してきた数多くのプリアンプの中でもトップクラスの歌いやすさで、瞬間的なインスピレーションを与えてくれます。

通常、複数の機能を併せ持った機材というのは、利便性のために少しの妥協を許すもの。一点に集中して作られた機材に対して、サウンドクオリティの面で一歩譲るというのが定石ですが、MSCP-01は、アンプからトランスまであらゆるパターンを検証して制作されており、そのような妥協は皆無です。

内部回路の選定はもちろん、ボリュームやデザインからUI、電源スイッチに至るまで、想像しうる全てに意見を反映する機会を与えてくれたFloatia Designsに最大限の感謝を述べるとともに、この素晴らしいプリアンプD.I.が、誰かの相棒として、末長く素晴らしい音楽制作に携わることを願っています。

白神真志朗


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特注で同仕様のプリアンプを製作可能です。

¥330,000より。納期6ヶ月。

※ヴィンテージトランスの在庫はお問い合わせください。


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